
浄化 × 世界の浄化の儀式 – 南米 編
くたくたになった帰り道、人々はふと、サウナや銭湯に癒しを求めます。
もくもくと焚かれた温かい蒸気に包まれながら目を閉じ、涼しい風と水の冷たさに目が覚め、穏やかな整い時間を過ごしたら、そこには、生まれ変わったかのような磨かれた新しい自分との出会いがあります。
それはまるで、再生と浄化の儀式のよう。
サウナや入浴には、身体の汚れだけでなく魂を浄化するような、そんな神聖な趣があります。
古来よりサウナと似た伝統儀式が世界中のたくさんの国で行われていますが、その中で、古代南米での浄化の儀式に、人々を癒し浄化してきたヒントを見つけました。
テマスカルとは
南米の浄化儀式テマスカルは、古くから伝わる伝統的な蒸気浴の儀式です。古代マヤ・アステカ文化に深く根付いており、その歴史はなんと4000年も前から。
テマスカルは心身の癒しやリラクゼーションの目的もありながら、浄化や治癒、祈りの儀式としても行われていた、とても神聖な儀式でした。
また、病気の治療や出産後の回復、戦士の怪我のケアとしても重要な役割を持っていたそうです。
テマスカルという名前は、アステカ文明の言語であるナワトル語 Tema=蒸気、Calli=家、「Temazcalli=蒸気の家」という2つの言葉の掛け合わせが語源となっています。
その名の通り、実際の儀式は、土や石から作られた堅固なドーム型の小屋の中でおこなわれ、長時間熱した石に水やハーブ水をかけ蒸気を発生させていきます。
ドーム状の窓のない暗い洞窟のような作りは「母なる子宮」を表し、子宮の中に入り胎児であった自分に戻りふたたび生まれ変わることで、心身や魂の浄化・再生を祈りました。
南米の人々にとって、子宮はいのちの生まれる場所であり、魂の始まりの場所と考えられていたのかもしれません。
テマスカルは現代にも受け継がれていて、お家のお庭にテマスカルの小屋がある家庭もあるそうです。

四方を守る神の存在
テマスカルの儀式の中で興味深いのは、方角に神様が宿ると考えられている点です。
日本でも古来中国より伝来した「四神」という東西南北の神様がいますが、マヤ・アステカ文明でも、東西南北の4つの方角に神様が宿るとされ、其々の神様に名前やエネルギーがあると考えられてきました。
- 東:風の神「ケツァルコアトル」
マヤ語で美しい羽毛を持つ蛇という言葉のケツァルコアトルは、文明や叡智、創造の神様として崇められてきました。
大空を自由に駆け巡り、新しい太陽が登ってくる東は、誕生や生命の力を表すと言われています。
- 西:火・穀物の神「ヒペトテク」
植物が育つように豊穣や成長の神として重要な神様とされてきました。
また、太陽が沈む西は終わり(死後の世界)と再生をあらわし、自然のサイクルを象徴しています。(南米での死は、仏教の輪廻転生のように新しい世界への生まれ変わり、再生を意味し、決して悲しいことではなかったそうです。)
- 南:水・太陽の神「ウイツィロポクトリ」
アステカ帝国を守った守護神の一人であり、戦士たちの守護神、軍神として崇められてきました。
南は「熱」をあらわし、生命力の最も高い場所と言われています。
- 北:土・破壊の神「テスカトリポカ」
最初の世界を作り上げ滅亡させた、アステカ文明の中でも重要な創造と破壊の神様です。
象徴となる黒曜石で未来を映し出し、真実を予言する、魔術の力も備えていました。 北という方角は厳しさや冷たさ、闇や宿命を表し、死者へと通じる方角としてアステカでは恐れられていました。
感覚を通して清める浄化の儀式
テマスカルの儀式には、蒸気浴以外にも様々な浄化儀式が登場します。
儀式に先立ち、最初におこなわれるのは各方位の神様へのお祈りです。参加者は東西南北の神様へ祈りを捧げ、自然との調和や感謝を伝えます。
次におこなうのは、小屋に入る前に煙のセレモニーです。煙はエネルギーの浄化や、自然との調和、先祖との交信を意味していて、先導者(シャーマン)は、参加者をセージなどの薬草やミルラなどの没薬を燻した煙で身体を包み、浄化していきます。
その後、ハーブの香り漂う聖水でも身を清め、神聖な小屋へ入る許可を、精霊たちにお祈ります。最後にシャーマンが法螺貝の音色を使って、音で汚れを祓っていきます。
身体を清めたら、いよいよ母なる子宮を表した真っ暗な小屋の中へ。
参加者は熱した石と蒸気に包まれ、先導者に導かれながら、一人一人歌をうたっていきます。
その歌は、自然や自分、身の回りの人に向けた愛や感謝を綴った歌、または心の懺悔の歌など、感情も歌と共に吐き出して、心も開放しデトックスしていきます。 じんわりとした蒸気に包まれながら、熱や音、光と調和し、自身が自然に立ち返っていく、不思議な感覚を味わいます。

自然とつながるエレメンツ
この浄化の儀式には、重要な自然のエレメント(要素)が入っています。
- 火のエレメント:石を熱する炎
- 水のエレメント:蒸気
- 土のエレメント:地面
- 風のエレメント:ドアを開けて流れてくる風
これらのエレメンツは、方角の神様とも繋がっています。自然という神様のエネルギーを肌で感じることで、参加者は自然と一体化し自らを調和させていきます。
また、これらのエレメンツは、ミクロとマクロの世界のように、私たちの体にも同じように宿っているといいます。
- 火のエレメント:わたしたちの魂
- 水のエレメント:流れる汗や血液
- 土のエレメント:身体は母なる大地
- 風のエレメント:呼吸
参加者は儀式のエレメンツを通して自身の身体と向き合い、自分たちが自然の一部であることを思い出すことができます。
自然とともに、自らの身体と魂を慈しむ。 そんな愛のエネルギーがテマスカルには流れています。
感覚を呼び起こすために
ラピデムのファイブエレメンツオイルは、東洋医学の陰陽五行説という古来の伝統療法に基づいています。トリートメントの際にはまず視覚や嗅覚など、五感を使ったユニークな方法でお客様にオイルを選んでいただきます。
効能のイメージから入るとどうしても頭で考えて選んでしまいがちですが、感覚を研ぎ澄まして選ぶと、また違った香りを手に取ることも。ご自身では意外な選択であっても何故かしっくりくるのは、その日の体調にあった香りを、ちゃんと感覚が選び抜いたからなのかもしれません。
理性ではなく、心から求めているものを感じ、本能で選び取ってもらう。
そこから本来の自分へと繋がる“儀式”が始まります。
現代では便利になればなるほど、人々が本来持ち合わせている“五感”というものを使わなくなってしまったように思います。
聴くこと、観ること、触れること、嗅ぐこと、味わうこと。
そんなシンプルな行為こそが、現代を生き抜く私たちにはとても必要な時間なのではないでしょうか。ふと目に止まった木陰の揺めきや、頬に触れた優しい風、遠くから感じる次の季節の気配…
自然はどこにいても、わたしたちに教えてくれます。
今ここにある自分を慈しみ、自然と調和することを。
自然は自分であり、自分は自然の一部であると思い出すことを。
五感を働かせ、体の中に宿る自然のエネルギーを感じながら、自分自身の体と向き合い癒すこと。 それはつまり、心と体、そして魂を整えていく、小さくも確かな“日々の浄化の儀式”なのかもしれません。
